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東京高等裁判所 平成元年(行コ)82号 判決 1990年8月30日

神奈川県川崎市宮前区有馬二五二八番地

控訴人

川田和生

右訴訟代理人弁護士

金城勇二

東京都港区高輪三丁目一三番二二号

品川税務署

被控訴人

品川税務署長

早川博

右訴訟代理人弁護士

真鍋薫

右指定代理人

山口仁士

柴田英雄

吉田良一

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が昭和四三年六月一八日付けでした控訴人の昭和三九年分の所得税の再更正のうち総所得金額が五〇七三万三八九一円を超える部分並びにこれに伴う過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を取り消す。被控訴人が昭和四三年六月一八日付けでした控訴人の昭和四〇年分の所得税の再更正のうち総所得金額が四七三一万五〇六八円を超える部分並びにこれに伴う過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定を取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり補正するほかは、原判決の事実摘示「第二当事者の主張」(原判決二丁表末行から二八丁裏八行目まで及び同添付別表一ないし別表六)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決六丁裏五行目の「必要経費」の次に「(退職手当は安西茂人に係るものである。)」を加える。

2  同一五丁裏七行目の「4ないし6」を「4及び6」に改め、同一六丁表九行目の「被告主張」の前に「同(6)のうち、」を加える。

3  同二三丁表二行目の次に

「4 事実の隠蔽又は仮装の意思

控訴人は、当時、在日韓国居留民団の中に組織されていた納税貯蓄組合の組合員であったが、右組合と品川税務署は毎年話合いをもって品川税務署が右組合のその年度の納税額を定めており、右組合ないし組合員と品川税務署との間に組合員が右組合から割り当てられた納税額を納税すれば後日更正処分をしないという合意があった。控訴人は、右組合の割り当てに従って納税し、確定申告書は右組合で作成して提出しており、それで完全に正当且つ適法な納税をしているつもりであったので、本件納税に関して『事実の隠蔽又は仮装』の意思は全くなかったものである。また、申告納税といっても右にように実際は賦課課税制度の如き運用をされていたから、控訴人は会計帳簿も満足に備えておらず、控訴人自身が自分の商売について正確な数字を殆ど把握していなかったので、控訴人には『税額等の計算の基礎となるべき事実の隠蔽又は仮装』をする余地は全くなく、脱税の意図も認識もなかったものである。さらに、控訴人の場合、昭和三四年に帰化した際、右組合から脱退して個人的に申告納税をしようとしたところ、右組合の役員と品川税務署の係官から懇請されたため組合員に留まったものであり、その後組合員である限り個人的な申告納税をするわけにはいかず、自主申告の自由がなかったので、このような場合には国税通則法六八条一項の要件に該当しないものというべきである。」

を加える。

4  同二八丁裏八行目の次に

「4 同4は争う。控訴人の主張するようないわゆる割り当て納税は、それ自体納税貯蓄組合法に違反するのみならず、それがあるからといって、同組合を通して納税する各組合員個人の正当な納税意思を阻害すべき理由はなく、控訴人の主張は失当である。また、控訴人は、事業所得につき取引の事実を隠蔽し、その隠蔽したところに基づいて確定申告をしていたものであるから、国税通則法六八条一項に該当するものであることは明らかである。」

を加える。

5  同添付別表五の裏三行目の「重加算税の賦課決定の対象額」欄の「△三〇〇、〇〇〇」を「△一九九、五〇一」に、同行の「○」を「一〇〇、四九九」に、七行目の「三二、四五二、〇〇〇」を「三二、三五一、九〇〇」に、「二、二二五、一〇〇」を「二、三二五、二〇〇」にそれぞれ改める。

三  証拠関係は、本件記録中の各書証目録及び各証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、当審において提出された資料を含む本件全資料を検討した結果、本件各再更正及び本件各賦課決定はいずれも適法であるから、その取消を求める控訴人の本訴各請求は理由がなく、いずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の理由説示(原判決二九丁表二行目から四八丁裏七行目で並びに同添付別表ないし別表九)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二九丁裏一、二行目の「第一一号証の二」の次に「、成立に争いがない乙第二四号証の一、四」を加え、同三〇丁表末行の「一部であること」を「一部である雑収入であること」に改め、同裏末行の「高橋よし子」の次に「(成立に争いがない乙第二八号証によれば、戸籍上は高橋ヨシ子である。)」を加え、同三一丁表初行及び一〇行目の各「葛西せつ子」を「葛西せる」に、二行目の「裏給与として一〇〇万円」を「支度金として一五〇万円、裏給与として八〇万円」に、同行の「三一〇万円」を「四四〇万円」にそれぞれ改める。

2  同三四丁表七行目の「原告は、」の次に「高塩東に対し、」を加え、八、九行目の「昭和三六年六月二五日」を「昭和三六年六月二四日」に改める。

3  同三五丁表九、一〇行目の「所得控除額についても当事者間に争いがなく」を「所得控除額は、成立に争いがない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、五三万六〇五六円であると認められ」に改める。

4  同裏三、四行目の「配当控除及び源泉徴収税額については、当事者間に争いがないから」を「乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、配当控除額九万一七六一円及び源泉徴収税額六万三二二四円であって合計一五万四九八五円であると認められるから」に改める。

5  同三六丁表六、七行目の「第一一号証の三」の次に「、第二四号証の一ないし四(乙第二四号証の一ないし四の成立は当事者間に争いがない。)」を加え、同三七丁裏初行の「一部であること」を「一部である雑収入であること」に、末行の「八八万円」を「九六万円」に、同三八丁表初行、三九丁表九行目及び同裏末行から四〇丁表初行に懸けての各「葛西せつ子」を「葛西せる」に、同三八丁表二行目の「支度金及び」を「支度金として五〇万円、」に、三行目の「一九八万円」を「二五六万円」にそれぞれ改め、同裏四行目の「経費」の次に「、水増しの経費といったもの」を、同三九丁裏初行の「証言」の次に「並びに弁論の全趣旨」を、同四〇丁裏八行目の「慰安」の次に「及び利便」を、同四一丁表八行目の「右各証拠」の次に「及び弁論の全趣旨」をそれぞれ加える。

6  同四二丁表九行目の「一八五万五〇〇〇円」を「一八五万五五〇〇円」に、同裏五行目及び四三丁表二行目の各「本件土地」を「本件売却土地」にそれぞれ改める。

7  同四四丁表五行目の「総所得金額」の次に「(譲渡所得については課税譲渡所得金額である。)」を加え、六、七行目の「所得控除額についても当事者間に争いがなく」を「所得控除額は、乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、五四万五〇九六円であると認められ」に改める。

8  同表末行から同裏初行に懸けての「配当控除及び源泉徴収税額については、当事者間に争いがないから」を「乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、配当控除額六万四九五一円及び源泉徴収税額七万八六五七円であって合計一四万三六〇八円であると認められるから」に改める。

9  同四五丁表行及び同裏二、三行目の各「本件土地」を「本件売却土地」に改め、同裏一〇行目の「ことさら」を削り、同四七丁裏四行目末尾の次に「なお、控訴人は、事実の隠蔽又は仮装の意思がなかったから国税通則法六八条一項の要件に該当しないと主張するが、既に認定した控訴人が架空名義の預金口座を設けて帳簿外の売上金を預け入れた行為等からして、控訴人に事実の隠蔽又は仮装の意思がないと解する余地は全くないものであり、さらに、これを前提に考察すれば、控訴人の主張する品川税務署は同人が組合員であった納税貯蓄組合の各年度の納税額を定めており、右組合ないし組合員と品川税務署との間には組合員が右組合から割り当てられた納税額を納税すれば後日更正処分をしないという合意があったこと、控訴人は会計帳簿も満足に備えておらず、自分の商売について正確な数字を殆ど把握していなかったこと、控訴人は右組合の役員と品川税務署の係官から懇請されたため組合員に留まったが、組合員である限り控訴人には自主申告の自由がなかったこと等については、認める余地は全くなく、控訴人には国税通則法六八条一項の適用を除外すべき事情があったとは認めることはできない。」を加える。

10  同四八丁表四行目末尾の次に「また、既に述べたとおり、昭和四〇年分の医療費控除について過大な控除を受けたことは、控訴人が総所得金額を過少申告したことの相当因果関係内にあるものであり、医療費控除額のうち一〇万〇四九九円は過少申告加算税賦課の対象となるものであるというべきである。」を加える。

11  同表八行目の「九七〇万五三〇〇円」を「九七〇万五五七〇円」に、九行目の「一一万六二五〇円」を「一一万六二六〇円」にそれぞれ改める。

12  同添付別表九の裏四行目及び五行目の各「同右」を「原本の存在及び成立につき当事者間に争いがない。」に改める。

二  よって、以上と同旨の原判決は相当であって、本件各控訴は理由がないから、いずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉卓哉 裁判官 大島崇志 裁判官 渡邉温)

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